囚われのシンデレラーafter storyー
「あずさ」
「ん? 何ですか?」
ゆっくりと労わるように撫でてくれるその手に心をから身を委ねていると、佳孝さんが少し身体を起こし私を見下ろした。
「これから、あずさの心にも身体にも大きな負担がかかる。緊張もプレッシャーもあるのが当然だ。とにかく自分の身体のことを第一に考えろ。舞台に立つ時、最高の状態の自分でいられるように」
「……はい」
佳孝さんは分かってくれている。
初めての大きなコンサートが、私にとってどんな意味を持つか。
「あずさなら大丈夫。これまで、あずさの舞台を見て来て、酷い演奏をしたあずさを見たことはない。舞台で演奏をするあずさは、いつだって最高に輝いてる」
「ありがとう。佳孝さんにそう言ってもらえると、力をもらえる。私、本当に頑張ります」
真正面にあった佳孝さんの顔が、降りて来て。唇が重なる。
マンションの前にタクシーが止まった。
「送ってくれて、ありがとうございます。佳孝さんは、明日は早い便なんですよね。寝坊しないようにね」
「ああ。あずさも気をつけて。それと――」
待たせているタクシーの前で向き合って立つと、佳孝さんが少し真面目な顔になって言った。
「今度、ちゃんとあずさのお母さんに、こうして二人でいることを挨拶しようと思ってる。いいか?」
佳孝さん――。
「は、はい。もちろんです。母も喜びます」
「分かった。じゃあ、また」
私の腕に触れた手が離れて、背を向けた。
「……本当に、ありがとうございました!」
そうして、佳孝さんと東京で別れて。
佳孝さんが言っていたことが、現実になってしまった。
モスクワに戻ってからの私は、時間的余裕がまるでない状態になった。