囚われのシンデレラーafter storyー
「あ、あの、今日は――」
松澤さんとの打ち合わせがあるとは聞いていない。
「この後予定は?」
「ありませんが……」
「じゃあ、ちょっと付き合え」
「打ち合わせですか? だったら、植原さん、呼んできます――」
「違う。個人的なものだ」
そう言うと、さっさと歩き出してしまった。
一体、何だろう――?
歩いて行くそのスピードに付いて行くのに必死になりながら、頭の中をぐるぐるとさせていた。
今日の、私の演奏を聴いたのか――。
それで……?
もうそれしか考えられなくて、不安と恐怖を胸に歩いていた。
楽器店のビルからすぐ近く、落ち着いた感じの喫茶店に連れられ、今、向き合って座っている。
緊張しかないこの状態で、甘いものを頼もうなどという余裕はまるでなかった。
脚を組み、王様のように座っている。座っていても見下ろされているような威圧感があった。
世間話をするような雰囲気でもない。意を決して言葉を発する。
「あの……今日は、どうされたんですか……?」
ぎろりと鋭い目がこちらへと動いた。
「ちょうどここ三日、仕事で東京にいて。植原さんが、もし時間があるならと今日のイベントを教えてくれてね。たまたま時間があったから寄ってみたんだ。オケのためにも、君の音を早く聴いておきたいとも思ったからね」
植原さん――?
そんなこと、一言も言っていなかった。
松澤さんがいることに全然気づかなかった。
これだけ大きな人なのに気付かなかったなんて、一体どこにいたんだろう。
でも、気付かなくて良かったとも思う。
「――それでだが。今日、君の演奏を聴いて感じたことを率直に言おう」
膝の上でぎゅっと手を握り合わせ、宣告を待つ。
「情緒に寄り過ぎている。聴いていて、もたれて来るんだ。甘ったるく感傷的な表現ばかりでは、その聴かせどころの価値が落ちる。うんざりに変わる」
うんざり――。
その辛辣さが胸を抉る。
「……確かに、感情に飲まれてしまうことはあるかもしれません」
「――ただ、その音は絶品だ」
え――。
俯いていた顔を思わず上げる。
「音が重層的で深みがある。まるで人生何もかもを見て来たような。だから、聴いた人は、君の音に自分の中の何かを重ね心動かされる」
ぽかんとその顔を見つめてしまった。
もしかして、褒めてもらっているのだろうか――?