囚われのシンデレラーafter storyー


「本当ですか……?」

抉る言葉とのあまりの落差に、思わずそんなことを口から漏らしてしまっていた。

「どうして私が嘘なんかつかなければならないんだ。いいものはいい、ダメなものはダメ。私の中にはそれしかない」

そうだった。この人はそういう人だった。

「だからこそ。これから君がどんな演奏家になって行くのか、今が重要だ」

松澤さんが組んだ脚を戻し、私を真正面から見据えた。

「アイドル崩れみたいな演奏家になるのか、本格派の演奏家になるのか。動き出した今にかかっている」

そこから堰を切ったように話し出した。

「今回君が出したCD。あれは、完全に売れる事だけを考えているプログラムだ。耳ざわりのいい曲ばかり、君の見た目の雰囲気を最大限に生かした戦略だろう。それが間違っているとは言わない。最初に、世間に広く認知させるにはいい方法だろう。奴らも商売だ。ボランティアじゃない。でも、次に出すCDは、君にかかっている」

そこで、松澤さんがふっと息を吐いた。

「君は、どうなんだ。チャイコフスキーのタイトルも持っている可愛くて綺麗な女だとちやほやされて、そのついでにバイオリンを弾いていればいいのか。それとも、一流の演奏家になりたいのか?」

そんなの、考えるまでもない。

「もちろん、本物のバイオリニストです。そのためにチャイコフスキーを狙ったんですから」

佳孝さんが信じ続けてくれた私のバイオリンが認められること。

そして本物のバイオリニストになることで、私と出会ったことを後悔させないためだ。片手間にバイオリンを弾くために死にもの狂いで生きて来たんじゃない。

「だったら。事務所とレコード会社に、本格派のCDを出させるような演奏をし続けることだ。認めさせろ。この世界は甘くない。長く続けられる人間は一握り。世界はもっと厳しい。本物以外はあっという間に淘汰される」

本物になるためには――。

松澤さんの言葉が、自問自答させる。

「チャイコフスキーの協奏曲(コンチェルト)。私が振るからには、私の言うことは絶対だ。その代り、必ず、今以上の限界の先を引き出させてやる。君は、それだけの音を持っている」

その目力に、瞬きも出来なかった。

「感情だけに流される感傷的なチャイコンなんてやらせない。君の中にある情熱と想いを理知的にコントロールしろ」

その言葉一つも漏らさないようにと、気付けば前のめりになっている。

「本選の演奏、確かに情熱と何かしらの想いは強く伝わって来た。でもこれからは、それだけではだめだ。作曲家の指示に忠実に向き合い、コントロールして計算して、ここぞというところまで抑える。そして頂点が来たら、君の持つ情熱も想いも解き放つ。そうすることでその情熱が引き立つ。人はより感動する」
「はい」
「感情と、テクニックと、冷静さ。それが揃わなければ本物の演奏にならない。でもそれを出来た時、誰も君をアイドル扱いなんてしないだろう」

もっともっと。よりよい演奏をするために。

もっともっと、本物に近付きたい――。

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