囚われのシンデレラーafter storyー


それから、松澤さんに鬼のような課題を命じられた。

「オケとのリハまでに、ブラームス、シベリウス――このあたりのコンチェルトをじっくり聴いて少し研究してみろ。必ず君に足りないもののヒントになる」
「ブラームスにシベリウスって、そんな大曲を――」
「だからだろう? こういう重厚な曲のCDを自分の名前で出してみたいと思わないか?」

チャイコフスキーと同様にコンチェルトの中でも難易度が高いと言われている、ブラームスにシベリウス。
分かりやすい華やかさよりもその重厚さが、また別の技量を演奏者に求められる。

私がブラームス――。

「いつか出したい。いや、必ず出したいです」

考えただけで興奮する。血が騒ぐ感じとはこういうことかもしれない。

「目指すものがなければ、それに到達することもできない」
「確かに。本当に、そうですね」

どれだけ高く険しい目標だとしても。
その目標を自分の中に立てなければ何も始まらなかった。
チャイコフスキーコンクールだってそうだった。無理だと諦めたままでいたら、私には何も起きていない。

「ブラームスは最高だろう。彼の音楽は――」

こうして話していると、本当に音楽を愛しているのだと分かる。心から愛し、崇拝しているからこそ、厳しくもなる。

「私はやっぱり、ブラームスは交響曲が好きです。オーケストラの魅力を存分に引き出して、幾重にも積み重なる重厚な音が本当に贅沢で――」
「君の音も、外見からは想像もできないくらい、意外に骨太だと思う」
「骨太……ですか?」

そんな風に自分でも思ったことはないし、他人に言われたこともなかった。

「ああ。それにしても、君は――」

松澤さんの表情から、ほんの少し険しさが消える。背もたれに深く身体を預けて、溜息を吐くように言った。

「演奏している時とそうでない時の差があまりにあり過ぎないか? 初めて上野で会った時にも思った。こうしていると、君は本当に普通過ぎるほどに普通だ」

”私が想像していた印象と違うな”

確か、初めて会った時にそう言われた。

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