囚われのシンデレラーafter storyー
「松澤さんが一緒にお仕事されるような演奏家の方たちは、皆さん、日頃からオーラがあるんでしょうね」
そう苦笑する。
私にそんなオーラがあるとは到底思えない。
「ソリストなんかになれば、それはもう奇人変人ばかりだよ。野心でギラギラしているし、世界中で一番自分が上手いと思って疑わない連中だ」
確かにそれくらいの自負と自信がなければ、その地位にたどり着いていないだろう。
「その点、君は、私の指摘に一度もムッとしたりはしなかった」
「それは、私がまだ新人だからです」
「もちろん、若手はあからさまに反抗してきたりはしない。でも、心の中では怒りで一杯なんだよ。それがどうしても顔に出てしまう人間が多い。君はまるでそういうことがない。かと思えば、決して自分に自信がないわけでもない」
松澤さんが考え込むように私を見る。
「普通に見えて、ただの普通でもない……掴みどころのない女だな」
そう言って笑った。
この人も笑うんだ――。
なんてことをこっそり思ってしまった。
ただただその威圧感に委縮していたはずの自分が、気付けば普通に話をしていて。時間が経つのを忘れていた。
「――今、何時だ?」
「19時ですけど――」
「なんだって? もうそんな時間か?」
王様然としていた松澤さんが、突然慌て出した。
「これからパリに帰るんだ。急がないと飛行機に間に合わない」
「大丈夫ですか?」
「まあ、今から急げばぎりぎりなんとかなるだろう。すっかり時間を忘れていた」
「じゃあ、早く行ってください!」
こちらまで焦る。
「悪いがここで失礼する。これで、支払いをしておいてくれ。じゃあ、また」
「こんなに必要ありません――」
――と手を伸ばしたが、ジャケットを翻し風のようにいなくなってしまった。
テーブルに置かれた五千円札を見て、肩から力が抜けてしまった。