囚われのシンデレラーafter storyー
今から電話しては迷惑だ。明日の仕事にも支障を与えてしまう。
時計の針が指す時間を見て溜息を吐いた。
でも、もう数日声を聞いていない。少しでも声を聞こうと、翌朝早くに私から電話をした。
「――出勤前の忙しい時間にごめんね。それに、昨日も電話に出られなくてごめんなさい」
一人の部屋で頭を下げる。
(寝ちゃったんだろ?)
「うん。でも、ごめん」
(いいよ。それよりモスクワはもう寒いはずだ。ベッドでうたた寝なんてして風邪ひくなよ?)
責めることもなく、こうして私の身体を心配してくれる声に、余計に申し訳なさが募る。
「ホント、気付くと寝ちゃっていて。気をつけないといけませんね」
(なあ、あずさ……)
「ん?」
佳孝さんが何かを言おうとして、言い淀む。
「どうしたの?」
(今、凄く、忙しいんだよな……?)
「……そうですね。そろそろ東京公演の日も近付いているし、練習に追い詰められているって感じです」
(そうだよな。寝落ちしてしまうくらいなんだから、あずさも疲れてるってことだ。練習に没頭するのはいいけど、ちゃんと食べることと寝ることは忘れるなよ)
「はい。体調管理は大切ですよね」
(そうだ。それがプロだぞ)
佳孝さんが笑う。
「今月下旬にそちらに行きます。そのまま12月の公演の日までパリにいようと思っているので、佳孝さんの誕生日、一緒に祝いましょうね」
11月下旬に東京でコンサートを終えたら、すぐにパリに行くことになっている。パリの管弦楽団との合わせを行うためだ。
(あずさが祝ってくれるんだったな。楽しみにしてるよ)
まだ3週間くらい先だけれど、その日を励みに、頑張ろう――。
(本当に、楽しみにしてる)
その佳孝さんの声は、心の奥底深くから出ているようなものに聞こえた。
気付けば、9月に佳孝さんが突然東京に来てくれた日から約2か月。佳孝さんに会っていなかった。