囚われのシンデレラーafter storyー
東京公演を1週間前にして、東京に降り立った。
いよいよ、東京にある有名オーケストラとの共演だ。
緊張と胸の高鳴りと共に、リハーサルのためホールへと足を踏み入れた。
「進藤あずさです。皆さんの胸を借りて精一杯いい演奏をしたいと思っています。よろしくお願いします」
松澤さんの横で、オケのメンバーに向かって頭を下げると、拍手の代わりに床を足踏みしてくれた。
「――時間もないので、早速頭から」
指揮台に立つ松澤さんが、オケに向かってそう言い私に視線を寄こす。それに頷き、定位置についた。
バイオリンが入るまでのオケ部分の演奏が始まる。
これまで、二人の指揮者とこの曲を演奏して来たけれど、その誰とも違う。松澤さんのチャイコフスキーだ。
自然と心が湧きたつ。
バイオリンの旋律を引き入れるようにオケが鳴りやんだ。
呼吸をして最初の音を鳴らし、テーマとなる旋律を奏でる。
「――ストップ!」
松澤さんの低くて恐ろしいほどに通る声が、音楽を止めた。
「そこ、ゆっくりし過ぎだ。まだ抑えろ。この先の盛り上がりをどう処理する気だ? ちゃんと考えているのか? 全部台無しにするつもりか」
眼光鋭い眼差しが私に向けられる。
「すみません」
「君のせいで、オケまでもたつくんだ。オケは君ために弾く。君のためにあるんだ。だからこそ、勝手なことをするな。最悪な演奏の道連れにされたらたまったもんじゃない」
「はい……っ!」
それからも、たびたび音を止められた。
感情が引っ張られそうになる瞬間に引き戻すように止められて。
フラストレーションのようなものを感じさせられている。
「そこはオケとの掛け合いだ。君の独壇場じゃない。チャイコフスキーがそう楽譜で言っているんだよ。その目はどこについてる」
「はい」
「16分音符。感覚で弾き流すな。4つの粒をすべて音色を変えるくらいのつもりで弾け」
「はい!」
「それで変えたつもりか? ふざけるな。耳まで節穴か」
公開処刑のような通しが終わった頃には、気分的には体重5キロくらい減ったような疲労感を味わっていた。
「――とりあえず、15分休憩」
そう告げると、松澤さんは最初に舞台からいなくなった。その姿が消えた瞬間に、大きく息を吐く。
予想はしていたけれど、本当に厳しい。言い方といい言葉といい、はっきり言って鬼だ。
厳しく細かい要求に応えようと、ただ必死にここに立っていた。