囚われのシンデレラーafter storyー


 でも、その厳しい言葉も、求められる高いレベルもすべて私を駆り立てる。

それに応えることが出来れば、きっと最高のチャイコフスキーになるという予感が私をワクワクさせるのだ。

 休憩を終え、舞台に戻る。

「じゃあ、もう一度頭から」

その声に、指揮台を見つめた。

松澤さんの指揮棒は、その獣めいた風貌からは考えられないほどにしなやかだ。それでいて、当然力強さもある。
あの指から繰り出されるオケの音が、引き寄せられるように吸い付くように、変幻自在に変化する。

37歳という若さでその地位を確立した人の才能――。

先ほどの合わせで言われたことを、この指で再現する。
私だって、ここに来るまでに入念に準備をしてきたのだ。

絶対に、松澤さんの要求するレベルに応えてみせる――。

その気持ちで、弦をはじいた。


 リハーサルが終わり松澤さんを探すと、ラウンジで一人コーヒーを飲んでいるところを見つけた。

「今日は、ありがとうございました。まだまだ足りないところがあると思い知らされました。また、調整して――」
「いや、想像以上だったよ」
「え……?」

とりあえずこの日のお礼とお詫びをと思っていたら、予想と違う言葉が返って来て驚く。

「今日一日でも、また、変わった」

立っている私をゆっくりと見上げる。

「本当に君は、私の想像を超えて来る」

あれだけ舞台で罵倒されたのにと、不思議に思いながら松澤さんを見つめた。

「本番は、もっと変わる。楽しみにしておけ」

楽しみに――。

そう言って不敵に笑う。

「あ、そうだ。これを――」

松澤さんを探していたもう一つの目的。
10月に東京で会った時に受け取ったお金を返すためだ。
さすがにそのほとんどを使っていないのだからそのまま受け取るわけにも行かない。

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