囚われのシンデレラーafter storyー


「それはなんだ?」

白い封筒を差し出す。

「先月、喫茶店に入った時に松澤さんが置いていかれたお金です。あんなには必要なかったので、お返しします」
「その必要はない。一度渡したものだ」
「そういうわけには行きません」

こちらだって、どうしたらいいか扱いに困る。引くわけには行かない。

「君も、頑固だな」
「すみません。受け取ってください」

その封筒を松澤さんに向けて、改めて差し出した。

「――だったら」

回転式の椅子をくるりと回し、私の方に完全に身体を向ける。

「東京公演の後に、それで一杯奢ってくれよ」
「え……?」
「それくらい、深く考える必要もない。どうってことないだろう」
「でも――」

私の言葉を遮るように立ち上がると、ジャケットを手に私に背を向け立ち去ってしまった。

仕方ない。本番の日に、もう一度渡そう――。

自ら女性に手を出す人ではないと植原さんから聞いているから、松澤さんに対しては警戒心はない。それに、たくさんの女性を相手にして来たであろう人が、わざわざ”普通”の私を気に入るとも思えない。

 大人の付き合いの一つとして捉えればいいのかもしれない。でも、さすがに二人でお酒を飲むことには抵抗があった。

 例え何もなくても、佳孝さんが聞いたらあまりいい気分にはならないだろう。ただでさえ離れている。心配をかけるようなことはしたくない。



 東京公演本番を迎えた。

 控室で、一人イメージトレーニングをする。緊張は、している。それもかなり。

でも、大丈夫――。

佳孝さんの写真を見て、「頑張って来るね」と心の中で呟いた。


 控室から舞台袖に移ると、松澤さんが既にそこに立っていた。背が高くがっしりとした身体に燕尾服がさまになっている。

佳孝さんにもらったドレスを着て、私はそこに立った。

「――今日、これまで知らなかった君自身を見せてやろう」

ゆっくりとその背中が動き、自信たっぷりの表情を私に見せる。

< 159 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop