囚われのシンデレラーafter storyー


 それから美味しい料理とお酒と共に談笑して。時間が過ぎるにつれ、皆がそれぞれに話し込み始める。

 植原さんは増田さんたち団員の方と、何故か音楽家のゲイ率について盛り上がっている。到底その話題に入る気にはならない。

「――今日は、本当にありがとうございました。松澤さんがおっしゃった通り、本当に見たことのない自分を見させてもらえました。何より自分が驚きました」

隣でワインを黙って飲んでいる松澤さんに声を掛けた。そう言えば、先ほどから飲むペースが早いような気がする。その見た目から、勝手に、お酒に強そうだとも思った。

「いや、それは私もだ。これまでもいろんなソリストと共演して来て、彼らの力を引き上げて来たつもりだが、君のその変貌ぶりには驚かされた」

ワインを手に、松澤さんの目が私に向けられる。

「リハの前までに相当準備をしただろ。だからこそ、これだけの短時間であそこまで変われることが出来たんだ」
「はい。銀座で松澤さんにアドバイスをいただいて、出来る限り松澤さんの求めるレベルに応えたいと思いました。そうすることで自分もさらに進化できると思ったんです。でも、リハではダメ出しばかりでどうしようかと思いましたけど」

そう言ってふっと笑うと、松澤さんが少し目を伏せた。

「要求すればするほど、君はそれを超えて来ると分かった。だから、口うるさく言ったんだ。本当にその通りになった」

その目が少し、これまで見たことのないものに変わる。

「感謝しています。パリでもまた、よろしくお願いします」
「君は――」

でも、その変化は、アルコールのせいかと納得したところだった。

「今日も、ある人のために演奏したのか……?」
「え……っ?」
「君の、コンクールの時に取材を受けた記事を読んだ」
「ああ、あの記事を……」

本選の後、どうしてコンクールに挑戦することに決めたのかと聞かれた時の答えだ。

「今では、その人のためだとか意識することはありません。もう私と共に常に一緒にいる。そんな感じです」

あの頃は佳孝さんは遠くにいて会えない人だったから。心の中で常に佳孝さんを想って弾いていた。

でも、今は。

距離は離れていても、いつだって私の傍にいて一番近くで聴いてくれている。

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