囚われのシンデレラーafter storyー
皆がいい具合に出来上がってしまい、お開きになる頃には完全に酔っ払い集団と化していた。
「あれー? 進藤さんは、あんまり酔ってないみたいだね~」
少し足音のおぼつかない植原さんが私の肩に腕を回して来る。
「ええ、まあ……」
あなたがそんなに酔うから、こっちは酔いも冷めますよ――。
と心の中で呟いてみる。
本当はそれだけでもないけれど。
なんとなく、お酒が進まなかった。疲れているのかもしれない。
「あれだけハイペースで飲んでいる人の横で、よくもまあそんなに抑えられたねぇ」
「あ……っ!」
植原さんに絡まれながら、ハッとする。
松澤さんにお金を返すんだった。
慌てて周囲を見渡す。
そうしたら、既に遠く離れて行った大きな背中を人が行き交う歩道の中に見つけた。
「松澤さん!」
背中に追いつくと、その長身の身体が振り向いた。
もうすぐそこまで来ている冬を感じさせる冷たい風が、松澤さんの長い前髪を揺らして。どこか憂いの漂う表情が私を見下ろす。
「――パリは、東京よりも厳しい聴衆が待っている」
「え……っ? あ、は、はい」
向き合い立つと、松澤さんが何の脈略もなく突然そう口にした。
「クラッシック音楽はヨーロッパのものだという意識が強い。アジア人の演奏なんてまがい物だという考えが根底にあったりする。だからこそ、より厳しい耳で判断してやろうとやって来るんだ。例えコンクールでタイトルを取っていたとしてもだ。でも、ヨーロッパの人間と同じように、チャイコフスキーを愛し、名曲を生み出した作曲家たちを愛している。君もそうだろう?」
「はい。バイオリンを手にした日から、ずっと憧れ、作曲家たちの曲に託した思いに近付きたいと思って来ました」
松澤さんが頷く。
「それを、パリの聴衆に共に伝えよう」
「はい……!」
「私が必ず、ヨーロッパの舞台で君のバイオリンが本物だと証明させてやる」
私の肩をポンと一度叩き、その身体を翻した。
「私も、精一杯やります。持ってるもの全部で」
その背中に向かって声を張り上げていた。
そして、思い出す。
あ――っ。封筒!
そう思った時には、もうその背中は完全に消えていた。