囚われのシンデレラーafter storyー
東京公演を終えた4日後にはパリに向かっていた。
本当に、強行スケジュールだ。その代わりに、パリでの滞在時間を長めにとることにしたのだ。
落ち着いて練習するためだということもあるけれど、もう一つの大切な目的は佳孝さんに少しでも会うため――。
もちろん遊びに行くわけではないから、パリの管弦楽団との合わせと自己練習がメインだ。
でも、その合間に時間を見つけて佳孝さんの顔が見られる。それだけで嬉しい。
私はモスクワからパリへと向かったので、パリの空港で植原さんと落ちあった。
「――とにかく、ここで名が売れれば大きい。世界で活躍できる日本人はそういないから。それがそのまま日本でのセールスにつながる」
空港のレストランで食事をとりながら植原さんと向き合う。
「世界での足掛かりとして、最初に松澤さんに振ってもらえるのは最良の選択だったと私は思ってる」
「はい。本当に、どれだけ助けられているか」
サンドイッチの具を崩さないようにと注意深く口にしながらそう言った。
「……結局、プロの演奏家として成功するかどうかって、才能も必要だけどどれだけいい出会いがあるかだと思うのよ。そういう意味で言えば運も必要」
植原さんが頬杖をついて、私を見つめる。
「でも、一流の人とただ一緒に仕事をすればいいというものじゃない。そこで、一流の人間にどれだけスイッチ入れさせるか。本気にさせるか。あなたは、松澤さんに『本気で育てたい』と思わせることが出来た」
頬に当てていた手をテーブルに置き、ずん、と顔を前に突き出して来る。
「頑張って!」
「はい」
私も気合を入れて返事をした。
「……もしかして、音楽だけじゃなく違うことにもスイッチ入れさせちゃったかもね~」
なのに、すぐににやりとした目で私を見て来た。
「何を言ってるんですか」
「向こうが本気なら反対しないわよ? あの松澤さんを跪かせることができたら、あなた、最高にかっこいいじゃない」
「……バカバカしいこと言わないでください。松澤さんにも失礼ですよ」
呆れて溜息が出て来てしまった。
「若手人気実力ともにナンバーワン指揮者と、チャイコフスキー3位の新星バイオリニストの夫婦――いい。かなりいい! 今、脳内イメージしてみたら、ビジュアルが最高だった。宣伝にもなる――」
付き合いきれない。
一人騒いでいる植原さんを放置して、私はサンドイッチを手にしながら楽譜を捲る。