囚われのシンデレラーafter storyー


 翌日、植原さんと共に、パリ管弦楽団の練習場を訪れた。

 この日は、パリ管弦楽団の方、松澤さん、そして私と植原さんとで顔合わせと、今後のスケジュールなんかについて打ち合わせをした。

「――じゃあ、次はリハの日に来るから。リハ前はあなたのスケジュール、少し時間に余裕があるわよね。その間はゆっくりして」

用を済ませると、植原さんは早々に日本に戻って行った。


 腕時計を見る。佳孝さんに伝えてあった時間のちょうど5分前だった。

どこかで待ち合わせをして自分でそこまで行くと言ったのに、

『あずさに余計な負担はかけたくない。道に迷ったりでもしたらどうするんだ。俺がそこに迎えに行くから待っていろ』

と言ってきかなかった。

佳孝さんにとって私は、いつまで経っても大人の女だとは思えないらしい。本当に過保護だ。


 管弦楽団の練習ホールが入る建物の一階ロビーへと出る。玄関前のホールにあるソファに、松澤さんほか、数人の団員の方が座っていた。

「今日は、ありがとうございました。また明日からお世話になります。では、失礼します」

そう声を掛けて頭を下げる。

「何か、この後用事でもあるのか?」
「はい、そうなんです。では、また明日」

素早くもう一度会釈をして、そこから立ち去った。

もう佳孝さんは着いているだろうか――。

この心は、既に佳孝さんの元へ行ってしまっている。


 建物から外に出ると、刺すような冷たい風が吹き付けた。パリの冬も寒さは厳しいみたいだ。

あたりを見回すと、建物の壁にもたれて立つ佳孝さんを見つけた。

佳孝さん――!

その立ち姿を見ただけで、胸がいっぱいになる。

「佳孝さん!」

私の声にその顔がこちらを向く。黒いコートの襟を立て、すらりとした姿で私を見る。

「あずさ」

その声を、実際に聞くのも2ヶ月半ぶり。
私の名前を呼ぶその声だけで、泣きたくなる。

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