囚われのシンデレラーafter storyー
食事を終えたらすぐに、宿泊するホテルの前まで佳孝さんがタクシーで送ってくれた。
「また明日、同じ場所で待ってる」
「本当にありがとう」
別れがたくて、ついそのコートの腕を掴んでしまった。
「……誕生日の日、楽しみ過ぎて、待ちきれないです」
「俺の誕生日なんだから、俺の方が楽しみだろ」
その私の手のひらを、大切なもののように握りしめてくれる。
そして、佳孝さんの大きくて優しい手のひらが私の頭に触れ、そのままそっと自分の胸の方へと引き寄せた。
「多分、その日、俺は正常ではいられないと思う。それまではちゃんとこうやってあずさをここに送り届けるだけの紳士でいるよ。あと少し、耐えてみせるさ」
佳孝さんの胸に抱き寄せられて耳元でそう囁かれた。
「佳孝さん……っ」
一瞬ぎゅっと強く抱きしめると、私の身体から離れた。
翌日は、オケの人たちが日頃練習で使っている大部屋を一日使わせてくれることになっていた。
狭い部屋では分からない響きを確認するためだ。朝から、ひたすらに確認をする。
東京公演のリハで松澤さんから言われたことを、もう一度最初から洗い直す。
一音、ワンフレーズ、細かくチェックしていく。
1楽章から3楽章まで、およそ40分ある曲だ。細かく確認して行ったらかなりの時間がかかる。
気が付けば、お昼を過ぎていた。来る時に買って来たパンを食べてから、練習を再開した。
今度は、通しで弾いてみよう――。
そう思ってバイオリンを構えた時だった。
「松澤さん……」
ホールの扉が開くと、その長身の姿が現れた。