囚われのシンデレラーafter storyー
「え……? でも、明日――」
あずさが、その目に驚きと戸惑いを浮かべた。
言ってしまって、激しい後悔に襲われる。すぐにあずさから手を離した。
「ごめん。今のはナシだ。明日ゆっくり会えるのに、何、言ってるんだろうな」
「佳孝さん、でも――」
大人なら、自分の感情くらい自分で飲み込めよ――。
不安そうな目を向けられて、すべてを誤魔化すように矢継ぎ早に言葉を放つ。
「あずさは明日もオケとの合わせがある。その準備があるのは分かってるのに、悪かった。たったの一日待つだけだ。気にしないでくれ。じゃあ、また明日」
あずさの手を握り、そのうかがうような目を優しく見つめた。
「……明日会える。じゃあな」
「はい……」
あずさと別れ、タクシーを走らせる。
あずさが見えなくなって大きく息を吐き、髪を乱暴にかき上げた。
自分の部屋に戻るなり、部屋の明かりも点けずにキッチンからウイスキーを持ち出す。
近くにあったグラスを手に、背の高い窓のそばにあるソファに身体を投げ出すように座った。
コートもジャケットも脱ぎ捨て、ネクタイをひったくった。
大ぶりなグラスに勢いよく琥珀色の液体を注ぎ、そのまま体内に流し込む。
暖房の効いていないひんやりとした暗い部屋。月の明かりが、まるでスポットライトのように、あずさがバイオリンを弾く写真を照らした。
ウイスキーが喉をひりつかせる。冷たいはずなのに、焼けるように熱い。一気に飲み干したせいで、急激に脳も身体もアルコールに侵食されて行く。
手のひらの中にある空になったグラスに、ウイスキーの瓶を傾ける。
今日は、もう何も考えずに寝てしまいたい。
西園寺の家も、父親のことも、あの男のことも。考えてしまえば、深い沼に引きずり込まれて行くだけのこと。引きずられる自分を見たくはない。
だから、今日だけは。ただ眠らせてくれ――。
二杯目をすぐに空にして、背中を背もたれに預け額に手のひらを置く。
――佳孝さん、好きです。
目を閉じても、その顔が浮かぶ。
『西園寺さんといられることが、私の一番の幸せだから』
俺があずさといてもいいんだと、あずさが言ってくれたんだ。
なのに、どうしてこんなにも苦しいんだ。