囚われのシンデレラーafter storyー
運よく大きな渋滞もなく、パリ中心部にタクシーはたどり着いた。
車窓からは、写真やテレビでよく見る光景が広がって行く。
エッフェル塔に凱旋門。
そこから少し車は進み、大通りから路地へと入って行くと、そこでタクシーを降りた。
「今日は、もう時間も遅いから。気軽に食べられる場所がいいと思って、俺がよく行く店を選んだ」
そう言って連れて来てくれたのは、"ビストロ"という、家庭的なフランス料理とお酒も飲める、日本でいうところの居酒屋のような所だった。
二人で向き合って席に着く。
地元の人が集うカジュアルな雰囲気が親しみやすい。
西園寺さんが、ジャケットを脱ぐとメニューを手にした。
「苦手なもの、何かある?」
「いえ。私、好き嫌いがないのが取り柄なので、西園寺さんにお任せします」
「分かった。それじゃあ……、肉と魚と、野菜で、適当に頼んでいい?」
「はい。お願いします」
メニューに目を走らせると、すぐに店員さんを呼んだ。
「―――」
ペラペラと何かを注文していることは分かる。でも、それはフランス語で、全然理解できない。
「フランスで働いているんだから当然なんだろうけど、西園寺さんはフランス語も出来るんですね。コンクールに来てくれた時も、普通にロシア語も話していたし。一体、何か国語話せるんですか?」
店員さんが立ち去った後に、その顔をまじまじと見つめながら聞いてみた。
「ああ……英語と中国語はもともと話せたけど、それ以外は大人になってから必要に迫られて覚えたものだよ」
「じゃあ、英語と中国語は子供の頃から?」
英語だけでも私にとっては大変だった。
音楽をやっているから、本当なら語学も勉強しなくちゃいけなかったのだけれど、まったく余裕がなかった。
「……まあな。いちおう、将来はホテル業に就くことが決まっていたから。語学は当然のものとしてやっていた」
英才教育、ということだろうか――。
10年も前から西園寺さんのことを知っているのに、知らないこともまだまだたくさんあるのだと気付く。
もっともっと、これからは他愛のない話をしていきたい。
「じゃあ、他は何語を話せるの?」
「……イタリア語、ドイツ語、ロシア語、フランス語……くらいかな」
「え……っ!」
事もなげに話す目の前の人を、唖然として見つめてしまった。