囚われのシンデレラーafter storyー


「そ、そんなに?」

凄過ぎる――!

「必要だったから。人間、追い詰められると出来るようになるものだよ。大学卒業して数年、身一つで世界中のホテルで働いたんだ。その度に現地の言葉を覚えた。ただ、それだけだ」

頬杖をつきながら、西園寺さんが微笑む。

そう言えば、7年ぶりに再会したばかりの時、日本に帰国して間もないと言っていた。

『身一つ』とはどういう意味だろう。

「海外って、センチュリーホテルで働いていたんじゃないんですか?」
「後半はそうだけど、最初の数年は全然別のホテルだ。守られた場所じゃない、過酷な状況に身を置きたかったんだろうな。まあ、いかにも若造が考えそうなことだろ?」

それは、私と別れた後、ということになる。

そんな状況に敢えて身を置きたくなるくらい、西園寺さんの傷は大きかったということ――。

「――あずさ」

過去に思いを馳せていると、テーブルの上の私の手のひらを西園寺さんがとんとんと指で触れた。

「あずさには辛い思いをさせてしまった。その過去は変えられない。でも、俺があの時した経験は、全部が無駄だったわけではないと思う。おかげで、こうして仕事にもありつけているし。恵まれた世界しか知らなかった俺が、サバイバル力を身につけることが出来た。どこででも働ける自信があるよ」

穏やかな表情で、そう言った。

その表情は、これまでの自分の人生のすべて受け入れ消化して、たどり着いたものなのかもしれない。

そう思うと、どんな経験もその人を作り上げる要素となっていくのだと分かる。

私だって、そうだ。

「本当に、どんな出来事も全部、自分の中にあるんですよね。いいことも、悪いことも」
「ああ」

そして、こうしてまた西園寺さんと向き合えているんだ。

「でも、俺がそんな風に思えるのは、やっぱり、またこうやってあずさといられるからなのかもしれない」

どこをどう遠回りをしても、たどり着く先は西園寺さんだった。


 それから西園寺さんは、自分が働いたいろんな国での出来事をたくさん話してくれた。

高級ホテルだけじゃない、貧困地域でも働いていたという。どの話も、夢中になって聞いていた。

< 20 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop