囚われのシンデレラーafter storyー
真っ白なホテルの部屋の天井を見つめながら、この日の松澤さんの行動を振り返る。
もしかして、私に、何か特別な感情を持っている――?
まさか。
不意に過りそうになった一つの仮定を、すぐに否定する。
相手はあの松澤さんだ。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。さすがに、あり得ない。
経験豊富なあの人が、わざわざ私に何かを感じるはずなどない。
"自ら、女を求めることはない"
松澤さんはそういうタイプだと聞いているし、本人もそう言っていた。
私が松澤さんを特別な目で見ることなどない以上、何も起こり得ない。
驚かされるばかりだった行動も、指揮者としてソリストに取った行動。
その理解が、心のどこかに残る拭い去れない違和感を排除した。
雑念は、演奏の邪魔になるだけだ。
むくりと身体を上げ、立ち上がった。
この日のために用意したプレゼントをバッグにしまう。佳孝さんの家に泊まる準備もできている。
明日は、無理をしないように少しゆっくりして、またリハーサルの日までにギアを上げて行こう――。
そう思って、佳孝さんからの連絡を待っていたその時、部屋のドアをノックする音がした。
その音にびくつく。誰かここを訪ねて来る予定はない。恐る恐るドアへと近づく。
「俺だ。開けてくれ」
え……?
佳孝さん?
まさに今連絡を待っていたから、驚いてすぐにドアを開けた。
「どうしたの? 直接、迎えに来てくれたんですか? 連絡を待っていたんですけど、メッセージ読んだ――」
目の前に現れた佳孝さんが、部屋に入るなり私を抱きしめた。
「大丈夫なのか?」
「え……っ?」
佳孝さんの呼吸が荒い。走って来たのか。
その様子に驚いていると、抱きしめらていた身体が離れた。
「練習中に倒れたって聞いた。具合はどうなんだ」
「倒れたって……どうして?」
佳孝さんの苦しそうな表情に、私の方が戸惑う。
私は、佳孝さんに伝えていない。
それも、倒れただなんて。
「そんなこと、誰に聞いたんですか?」
「いつものように迎えに行こうとしたところで、たまたま指揮者の松澤さんに会った。それで、あずさが倒れたと聞いたんだ」
松澤さん――?
「ホテルに戻っていると言っていたから、
慌ててここへ来た。あずさ――」
佳孝さんと松澤さんに接点はないはずだ。
状況が飲み込めないでいると、佳孝さんが私の頬を両手で挟み、その目を歪ませ、私の様子一つ一つを確認するように見つめる。
「ごめんな。ちゃんと気付いてやれなくて悪かった。あずさが疲れていることなんて分かり切っていたのに――」
佳孝さんなら、そうやって自分を責めると分かっていた。そもそも、佳孝さんに何の責任もないのだ。
だから、言わずにいた。
それなのに――。