囚われのシンデレラーafter storyー


「無理はさせられない」
「無理なんてしていません!」

気付けば、佳孝さんに声を張り上げていた。

「私が大丈夫だって言っているんです。どうして、それを分かってくれないの?」
「あずさ本人も意識をしていないところで、疲れてしまっていたんだよ」

佳孝さんが私の肩を掴み、正面から見つめて来た。

「食事を一緒にするくらいならって、そう思っていた。でも、その時間も気づかないうちにあずさを疲れさせていたかもしれない。ほら、よく言うだろう。仕事より、休日に楽しんでいる時の方が身体的には疲れているって。ただでさえ、初めての舞台を前にしてプレッシャーもあるところに、俺があずさに会いたいからと付き合わせてしまった。それだけならまだしも――」
「昨日のことなら、佳孝さんに責任なんて何ひとつないですからね? 子どもじゃないんです。あれは、私が自分の判断で行ったの。今だって、行ったことを後悔なんかしてません」
「ああ、分かってるよ」

その目が必死に私に優しく微笑もうとしているのが分かる。

「今日、体調を崩したのは佳孝さんのせいなんかじゃないんです。むしろ佳孝さんは、ずっと私を気遣ってくれた。バイオリンに集中させてくれていました」

佳孝さんの腕をコート越しに強く掴んだ。

「あずさ」

私の両肩を強く掴み、私を見据える。

「仕事は、信頼関係の上に成り立っている。あずさも言っていただろう? 松澤さんを信頼していると。信頼しているからこそいい音楽を生み出せるって。そのおかげで東京公演を成功させることが出来た。今、あずさはあの人を不安にさせてしまっている。それでは信頼関係は維持できない。あずさが、今考えるべきことは、パリ公演を成功させることだけだ。そのためには次までに体調は完璧に万全にしなければならない」
「佳孝さん……」

佳孝さんの目を縋るように見つめるけれど、その目はどこか辛そうだった。

「ましてや、今日倒れたんだ。せめて今日くらいは、ちゃんと休まなくてはだめだ」

佳孝さんの手が、私の身体を抱き寄せた。

「心配なんだ。ここに来るまで、不安でたまらなかった」

コートを着たままの広い胸にくっついた私の耳に、佳孝さんの深く沁み入る声と激しい鼓動が伝わって来る。

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