囚われのシンデレラーafter storyー


 薄暗く浮かび上がる天井を見上げると、これまでの出来事が走馬灯のように流れて行った。

 バイオリンを捨てようとした私に、捨てられるはずないと怒りバイオリンに向き合わせた。

自分の感情なんて全部押し殺して、私の夢のために結婚までした。

バイオリニストとして成功できると誰よりも信じてくれて。そのために、精一杯後押ししてくれた。

結局、離れていた2年間も、私のことを気にかけてファイナルの舞台に駆けつけて。

あの時、私のバイオリンを聴いた佳孝さんが流した涙を忘れちゃだめだ。

パリで最高の演奏をして、弾き終えたとき最高の笑顔を見せることが出来たら。

それが佳孝さんを安心させ、心から笑顔にすることが出来るーー。

佳孝さんの思いを無にするようなことはしたくない。だってこれは、私一人の夢じゃない。

そう思えたら、込み上げる涙も引いて行った。


(……もしもし、どうした? 気分でも悪くなった?)

日付が変わる前に、佳孝さんに電話をした。

「ううん、そうじゃなくて」

電話に出るなり慌て始める佳孝さんの声を遮る。

「何時でもいいって言ってくれたから、電話しちゃった。遅くにごめんなさい」
(体調は、大丈夫なんだな?)
「はい」

スマホの向こうで、佳孝さんがふっと息を吐いたのに気付いた。

「今日のうちにおめでとうが言いたくて」

天井を見上げながら、そう言った。

「佳孝さん、お誕生日おめでとう」

この言葉を佳孝さんに告げたのは初めてだ。

(そう言えばそうだったな。ありがとう、あずさ)

佳孝さんの、低いけど優しい声が近くから聞こえる。

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