囚われのシンデレラーafter storyー
「何を言い出すのかと思えば……」
西園寺、さん――?
その表情を隠すみたいにして口元を手で覆っているけれど、そのほころぶ顔がこちらにも分かってしまう。
「それは、心配してくれているんだって、理解していいのか?」
「えっ? あ……」
嘘をついてもしょうがない。
本当の気持ちをありのまま伝えよう。
「はい、そうです。私にとって西園寺さんは、こんなにも私をドキドキさせる人です。西園寺さんの周囲に私のように感じる人がいてもおかしくない。だから、恋、人としては――」
"恋人"と口にするのに唇が緊張する。
「心配にもなります」
「――」
西園寺さんが無言だから、不安になる。
「あの……」
「ごめん。ちょっと、待って――」
何だろう……?
西園寺さんが私から顔を背ける。
それは何かを堪えているようにも見えた。
「――ごめん、質問に答えないとな」
咳払いを一つして、西園寺さんが私に向き直った。
「確かに、最初のうちは、誘われることもあった。でも、俺にとって同僚は同僚でしかないから。仕事から離れてしまえば、個人的に付き合おうとは思わない。そういう気にもならない。ただ、丁重に断るだけだ」
西園寺さんは、私の勢いだけの言葉みたいなものにも、きちんと向き合って答えてくれる。
そうして、私の不安を取り除いてくれる。
「こんなに可愛い人が心の中にいて、他の人が入り込む隙間なんて残っていない。俺にとって女性は、あずさしかいないよ」
目を細めて私を見つめる。
「それに。モスクワであずさと会った後、俺はかなり顔に出てしまっていたらしい。何人もの同僚から『恋人でも出来たのか』って聞かれてしまった」
「西園寺さんが?」
結婚していた時、私は一度だけ会社での西園寺さんを見たことがある。
その時を思い出したら、そんな西園寺さんをまるで想像できない。
「ああ。電話で、浮かれていたと言っただろう? 職場でまで顔に出てしまうなんて、よっぽどだったんだな。だから、もう、はっきり言ってしまった」
「え……っ?」
西園寺さんの手が私の方へと近付いて、その長い指が愛おしげに頬に触れる。
「”とても可愛い人なんだ”って。”可愛くてかっこいい人だ”と自慢してやった」
「え――」
この日、何度目の唖然だろう。
「その時の同僚の、驚いた顔と言ったら……まさか俺がそんなことを言うと思わなかったんだろうな。今ではもう『裏の顔は恋人にデレデレな奴』というレッテルをはられているありさまだ。今日も、早く行けと追い出されたよ」
驚いて目を見開く私に、西園寺さんがまた甘く微笑む。
「だから。何も心配するな」
西園寺さん――。
「……す、すみません。心配だなんて言って」
その指が輪郭をたどるみたいに優しく触れて、私の目尻を滑った。
「バカだな。謝る必要なんてない。ましてや、何故、目が潤んでるんだ」
「……う、ううん。何でもないです。ただ、嬉しいだけ」
自分でも分からない。何かが込み上げて来てたまらなかった。