囚われのシンデレラーafter storyー
「私は、音楽家としての松澤さんには本当に感謝しています。いろんなことを教えていただきました。自分だけでは到達できなかった演奏にたどり着けた。そんな演奏が出来た舞台は達成感でいっぱいで、新しい世界を見せてもらえました。でも、」
これだけは、私の中の絶対で。
誰に何と言われようと、それが佳孝さんであっても、絶対に譲れないことだ。
「私の出す音はいつも、彼の存在があって成立するものなんです。それが、私の土台なんです。土台がなければ、進化なんてできない。どんな演奏も、どんな発見も、彼という土台があるからできる」
松澤さんを真っ直ぐに見つめる。
「だから。私が有名になることで、彼が苦しむことになるのなら、離れなくちゃいけなくなるくらいなら、評価も知名度もいらない。佳孝さんの過去が私のバイオリンを汚すというのなら、私のバイオリンなんて所詮その程度だということです。世界の舞台になんて行けなくてもいい。
だからと言って、バイオリンを捨てることにはならない」
松澤さんは、ただ私をじっと見ていた。
「あの人がくれた今の私が、消えてなくなるわけじゃない。私はどこででもバイオリンを弾き続けます。
松澤さんから見たら、そんな私はプロ失格かもしれない。でも、私はそんな風にしか生きられません」
私は、佳孝さんのそばにいて、バイオリンを弾いていたいのだ。
「彼が、松澤さんに言われた言葉で何と返したのかは分かりませんが、私ははっきりあの人に伝えるつもりです。
何があっても、彼から離れるつもりはありません」
松澤さんが、ふっと息を吐いた。
「……羨ましいな」
それは、心の奥深く、いろんな感情を内包さたような深いものだった。