囚われのシンデレラーafter storyー
「何百年も残り続けて来た音楽と違って、人の心なんて脆いものだ。容易く移ろう。そんなものを信じて、支えにしようなどと思わなかったし、出来るとも思わなかった。それを、君は迷いなく信じている――羨ましいよ。羨ましいのと同時に、苦しいな」
そう言った松澤さんの顔を見る。
「本当に誰かを想うと信じることが出来ると、皮肉にも、叶わない相手に教えてもらったのだから」
その表情は、苦しげに無理やり微笑んだものだった。
「――君が、どれだけ彼を愛しているのか分かっていたからな。手に入れるための道なんてほとんどなかったよ。時間をかけたところで、おそらく勝ち目もない。だから、どんな卑怯な手でも使おうと思った。
私は後悔していない。どんな可能性も残さないようにしないと、このまま君と離れる方が後悔するに決まっているからな」
松澤さんが、ソファに身体を深く沈める。
「それほどに、君をどうしても欲しいと思った。でも、心のどこかで私の申し出に乗ることもないとも分かっていた。そんな君だから、眩しくて、深く惹かれたんだろう。もう、矛盾だらけだ。みっともないのは……私だな」
額に手のひらを当て俯いたままで、乾いた笑い声を上げる。
早く、佳孝さんの元へ行こう――。
「――お世話になりました」
俯いたままの松澤さんに、深く頭を下げた。
ずっと渡しそびれていた封筒をローテーブルの上にそっと置く。
そして、ドアへと向かう。
「……悪かった」
背後から聞こえた声に、無言のままもう一度頭を下げ、部屋を出た。
廊下に出てドアを閉める。
その閉じたドアに背を預け、無意識のうちに大きく息を吐き胸に手を当てた。