囚われのシンデレラーafter storyー


「進藤さん! どこ行ってたの」
「すみません」

植原さんが私を探していたようだ。私の姿を捉えるとすぐに駆け寄って来た。

「今日の演奏、凄く良かった。早速評判になってる。だからね、たくさん取材の申し込みが来ているのよ。明日の午後にスケジュールを組んだからよろしくね。午前中はゆっくりしていいから」
「わかりました」
「これからきっと、もっと忙しくなるわよ」

植原さんが、私に目配せをする。

「あの……。明日、お話しておきたいことがあるんです。お時間とってもらえますか?」
「いいけど……何?」
「それは、明日」

この後、佳孝さんとちゃんと話をして。
そのあとで、佳孝さんの存在を植原さんには伝えておきたいと思った。

これから、どういう状況に置かれることになるか分からない。それでも、佳孝さんと一緒にいることに変わりないのなら、話しておいた方がいい。

「分かった。じゃあ、明日」
「よろしくお願いします」

すべてを終え、ホールロビーへと向かう。


 公演終了から時間が経ち、観客のいない閑散としたロビーに、一人窓の向こうを見つめて佇む姿を見つけた。

「佳孝さん……っ」

佳孝さんの元へと、すぐに駈け出す。

「あずさ――」

ぎゅっと、力強くその腕を掴んだ。

「もう、いいのか……?」

ほんのわずか不安そうな佳孝さんの眼差しを見上げれば、どうしようもなく涙が溢れて。

「はい、もう、すべて終えて来ました」

その胸に飛び込んでいた。涙がばれないようにコートの胸に額を強く押しつける。
そんな私の背中に、優しい手のひらが当てられて抱きしめてくれる。

「そうか……」

たった三文字の言葉だけれど、それだけですべてを察したかのような声だった。

佳孝さんの温もりと匂い。そのすべてに包まれる中で、佳孝さんが囁く声がする。

「今日のコンチェルト、最高のプレゼントだった」
「佳孝さんに捧げた渾身のチャイコフスキーですから」
「しっかり受け取ったよ。ありがとう」
「……うん」

抱き締められていた身体が離れ、そこには佳孝さんの優しい笑みがあった。

「じゃあ、帰ろうか」
「はい」

それに笑みを返す。
差し出された手に指を絡めた。

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