囚われのシンデレラーafter storyー
佳孝さんのアパルトマンに着くと、先に部屋に足を踏み入れた佳孝さんが私に「おかえり」と言った。
一瞬、その言葉を不思議に思う。
でも、佳孝さんが私に言ってくれた言葉を思い出した。
『公演を終えて、あずさが俺のところに帰って来てくれるのを待っているから』
そう言ってくれた時には、佳孝さんは松澤さんと話をしていたのだ。
今になって、その言葉に深い想いが込められていたのを知る。
「俺の元に、帰って来てくれてありがとう」
深くて優しい、佳孝さんの声だ。
「当たり前じゃないですか。私の帰る場所は、あなたしかない。佳孝さんしかいないんです――」
その優しい声からは考えられないくらいに、きつく私を抱き寄せた。
骨が軋むような強さ。
佳孝さんの腕も手のひらも、私を強く締め付けるように抱きしめる。
「今日のあずさはきらきらしていて、どこからどう見ても、オケにも指揮者にも引けを取らない堂々としたバイオリニストだった。演奏だって、俺の想像をはるかに超えていたよ。あの会場にいた誰もが、あずさのバイオリンに魅了されていた。間違いなく、この先あずさの名前は広まる」
きつく抱きしめられているから、佳孝さんの顔は全然見えない。
その声と腕の強さだけが、佳孝さんの感情を知る唯一の手がかりだ。
私の背中を掴むその手のひらに、更に力が込められる。
「――そうなったとき、もし、俺とあずさの関係に目を付けられてしまったとしたら。俺の背負うものが、あずさに迷惑をかけるかもしれない。これからより注目されて行くあずさに、余計な情報が付加されてしまう。それだけじゃない――」
苦しそうな声と、間近で直接感じる佳孝さんの早い鼓動。
「俺は、あずさに言わなくてはいけないことがある」
何かを振り切るように私の身体を離すと、歪んだ表情で私を見た。