囚われのシンデレラーafter storyー
部屋の明かりは点けなくても、33本ものキャンドルが灯されていると、もう十分な明るさがある。
炎が至る場所でゆらゆらと揺れる様は幻想的で、本当に現実から離れた世界で二人しかいないみたいだ。
テーブルに向き合い、赤ワインを注いだグラスを合わせる。
「佳孝さん、遅れてしまいましたが、お誕生日おめでとうございます」
「……ありがとう」
ネクタイを取り寛いだシャツ姿になった佳孝さんが、どこか照れたように応えた。
「誰かに、こうして面と向かって『おめでとう』と言われたのは、大学の時以来かな」
「大学生の時?」
「家族が、祝ってくれていた。ああ、そう言えば……遥人もうちに来ていたか」
そう言って、その時のことを思いを巡らせているかのように少し寂しげに微笑む。
出会ったばかりの時は、ご家族と暮らしていたはずだ。
尊敬するお父様と、お母様と、妹さんと。そして、心から信頼していた親友に囲まれて、幸せな日々をきっと送っていた。出会った頃の佳孝さんは、陰なんてまったく感じられない王子様のようだった。
「それは、賑やかでしたね」
その頃は、こんな未来を予想もしていなかっただろう。そんな佳孝さんの寂しさに、思いを馳せる。
「……でも、俺は」
過去に向けられていた視線が私に戻る。
「今の方がずっと幸せだ。だって、あずさとこうしていられるんだから。これから先も」
――今の方がずっと幸せ。
辛くて苦しんだことを経ても、そう言ってくれた佳孝さんの表情に、私は笑顔になる。
「私も嬉しいです。ようやく佳孝さんの誕生日を祝えました。……そうだ!」
「何?」
私は席を離れ、バイオリンケースからバイオリンを取り出した。
「誕生日と言えば、”ハッピーバースデー”を歌わないと。でも、私はバイオリニストですから、バイオリンで」
「弾いてくれるのか?」
「はい。夜だし、迷惑になるので、小さな音でね」
バイオリンを構え、弦を引く。
誰でも知っているバースデーソングのメロディーを、小さな音で囁くように奏でる。
佳孝さんは、私の方へと身体を向けると目を閉じた。
これから毎年、一緒に祝おうね――。
小さい音だけれど、心を込めて。
「――33歳のお誕生日おめでとう! ハッピーバースデー」
弾き終えてそう言うと、佳孝さんが目を開き、満面の笑みになった。