囚われのシンデレラーafter storyー
「今の部屋は、以前のマンションのように楽器演奏は出来ないから。少し面倒をかけるけど――」
「いえ! こんなに条件のいい場所探してもらえて、本当に助かります。私のモスクワでの練習環境より何倍もいいですから!」
「そ、そうか。なら、良かった」
ここは全力で訴える。
「先に練習をした方が、あずさも心置きなく観光できるだろう? 好きなだけ弾いていいよ」
「ありがとうございます」
やはり、バイオリンを弾かない日というのは作りたくない。
積み上げるのは大変なのに、腕が落ちるのはあっという間だ。
「じゃあ、終わったら連絡してくれ」
「え……っ? ちょっと、待って!」
出て行こうとした西園寺さんに驚いて、咄嗟に声を掛けていた。
「ん?」
その目がこちらを向く。
「あの……」
以前は、バイオリンの音が好きだと言って、私の練習中も近くにいたこともあった。
つい、その感覚のままで引き留めてしまった。
どう言えばいいのだろう。
あれから時間が経っている。
もしかしたら、今は、特別聴いていたいとは思わないのかもしれない。
しておきたい仕事があるのかもしれない。
でも、なんとなく確認だけはしておきたくなった。
「この時間、西園寺さんは、何か予定があるんですか?」
「いや、ないよ」
「それなら。良かったら、少しでいいです、聴いて行ってくれませんか……?」
「――いいのか?」
その返事に、やはり確認しておいて良かったと思う。
「もちろんです! 西園寺さんに聴いてほしいです」
そう答えると、今度は心からの笑みをくれた。
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
この2年の成果を、誰よりも間近で聴いてほしいのは、西園寺さんだ。