囚われのシンデレラーafter storyー

「今の部屋は、以前のマンションのように楽器演奏は出来ないから。少し面倒をかけるけど――」
「いえ! こんなに条件のいい場所探してもらえて、本当に助かります。私のモスクワでの練習環境より何倍もいいですから!」
「そ、そうか。なら、良かった」

ここは全力で訴える。

「先に練習をした方が、あずさも心置きなく観光できるだろう? 好きなだけ弾いていいよ」
「ありがとうございます」

やはり、バイオリンを弾かない日というのは作りたくない。
積み上げるのは大変なのに、腕が落ちるのはあっという間だ。

「じゃあ、終わったら連絡してくれ」
「え……っ? ちょっと、待って!」

出て行こうとした西園寺さんに驚いて、咄嗟に声を掛けていた。

「ん?」

その目がこちらを向く。

「あの……」

以前は、バイオリンの音が好きだと言って、私の練習中も近くにいたこともあった。
つい、その感覚のままで引き留めてしまった。

どう言えばいいのだろう。
あれから時間が経っている。
もしかしたら、今は、特別聴いていたいとは思わないのかもしれない。
しておきたい仕事があるのかもしれない。

でも、なんとなく確認だけはしておきたくなった。

「この時間、西園寺さんは、何か予定があるんですか?」
「いや、ないよ」
「それなら。良かったら、少しでいいです、聴いて行ってくれませんか……?」
「――いいのか?」

その返事に、やはり確認しておいて良かったと思う。

「もちろんです! 西園寺さんに聴いてほしいです」

そう答えると、今度は心からの笑みをくれた。

「じゃあ、そうさせてもらうよ」

この2年の成果を、誰よりも間近で聴いてほしいのは、西園寺さんだ。

< 37 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop