囚われのシンデレラーafter storyー
「……よし、たかさん?」
私を見上げたまま何も言わないから、声を掛けてみる。
やっぱり、なかなか慣れない。
でも、この日は頑張って”佳孝さん”と呼ぶ努力をしている。
「ああ……うん。凄く、綺麗だ」
手にしていた新聞を横に置き、西園寺さんが立ち上がった。
「あずさは、こういう格好も似合うと分かっていたけど、想像以上だ」
「そういう、さ――佳孝さんも、すごく素敵」
光沢のある黒いスーツがスタイルのいい西園寺さんにぴったりとフィットして、本当に惚れ惚れするほどにかっこいい。
さっきよりもきっちりと整えられた前髪に胸のハンカチとネクタイが、フォーマル感漂って。
ただただ見惚れてしまう。
アパルトマンの前から乗り込んだタクシーは、パリ市内にある”ブローニュの森”へと入って行く。
こんな場所にあるレストランだなんて――。
「もしかして、三つ星レストラン、ですか……?」
「そうだよ」
そんな格式高いレストランになど行ったことはない。緊張感が増して来る。
「あずさ」
「はい」
西園寺さんが、私の手のひらをそっと握った。
「三つ星だろうが、カジュアルだろうが、基本は変わらない。食事を楽しむこと。そして、雰囲気を楽しむこと。マナーとはその店の雰囲気に合わせることだ。だから、俺たちは食事と一緒にその雰囲気も楽しむ」
私を優しく見つめる。
「こうして着飾ることで非日常を味わう。すべてを、楽しめばいい。細かいマナーはなんとでもなる。大丈夫。俺が付いてるから」
「はい」
そして、白亜の邸宅の前に車は止まった。
タクシーのドアが開く。
西園寺さんが、私に手を差し伸べた。
そこに自分の手を重ねる。
タクシーから降りると、西園寺さんがそのまま私の手を自分の腕に添えた。
その手が、私の不安を全部消し去って。
「――では、行こうか」
スマートなエスコートに、自分がお姫様にでもなった気分になる。