囚われのシンデレラーafter storyー

 レストランの扉が開くと、そこには本当に非日常が広がっていた。高い天井に、格子に囲われたレトロな窓。そして、贅沢に配置されたシャンデリアが煌めく。

 ウエイターが席へと案内するとき、西園寺さんが私に先に進むようにとさりげなく腰に手を当ててくれた。

 私たちに準備されていた席は、森をのぞめる窓際の席だった。向かいに座る西園寺さんが、手早くメニューの注文をしてくれる。

「――すごく素敵ですね」

ウエイターが立ち去った後、ため息混じりにそう声を漏らした。

「料理はもちろんのこと、内装や調度品を目で楽しむこともできる。他ではなかなか味わえない雰囲気だ」
「そうですね。壁画なんかも、本当に宮殿内にいるようです」

柱一つをとっても、らせん階段を見ても、目の届かない細かなところまで美しい装飾が施されている。緊張はするけれど、西園寺さんの言った通り、せっかくのこの雰囲気を最大限楽しもうと思えた。

「今日は、あずさのコンクール入賞のお祝いだ」
「そのために、ここを予約してくれたんですね?」

いろんなことを考えてくれていた西園寺さんに、改めて嬉しくなる。

「二人でお祝いしたかったんだ」

ワインのボトルが運ばれて来て、グラスに注がれた。

「あずさ、おめでとう」
「ありがとうございます」

芳醇な香りのワインが身体の中へと沁み込んで行く。

「改めて。よく頑張ったな。モスクワでの生活だって、慣れるまでは本当に大変だったはずだ」

こうして、西園寺さんにお祝いしてもらえることがどれだけ幸せなことか。
それを噛みしめる。

「――はい。でも、大変さなんて感じる余裕もないくらい、死にもの狂いだったから。きっと、私が音大生の頃のままモスクワに留学できていたとしてもここまでの成果はきっと出せなかった。私は、幼少期から名を馳せていた神童でもエリートでもなかったから」

天才的才能を持ち子供の頃から活躍しているような演奏家は、日本にも世界にも存在する。私は、そうではなかった。

「そんな私がこの成績を取るには、人並みの情熱と人並みの努力じゃ到底無理だったと思うんです。『何があっても』という強い意思がなければ不可能だった」

私の置かれた状況すべてが、実力以上のものを与えてくれたと思っている。

「一度は挫折して、苦しい経験があって。そして、西園寺さんが誰よりも私のバイオリンを信じてくれていた。その全部が取らせてくれた成績です。だから、こうして西園寺さんと一緒にお祝いできて本当に良かった」

どこかで聴いていてくれればいい――。

そう思っていた。でも、今こうして、西園寺さんと祝えている。

「俺がしてやれたことなんて、たかが知れてる。これまでのどんな経験も全部自分の音に昇華させることが出来たあずさの強さを、俺は尊敬してるよ」

そんな風に真剣に言われると、照れてしまう。
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