囚われのシンデレラーafter storyー
「CDを出す話も来ているんだろう?」
「はい。日本のレコード会社からそういう話をもらっています」
「チャイコフスキー3位なんだ。それも当然だ。リサイタルの依頼もこれから入って来るだろう」
運ばれて来た料理に、フォークとナイフを手にする。
「本当に、ありがたいことなんです。少しずつ、そういう活動もできそうで。この夏、紹介してもらった音楽事務所と契約することになっています」
「本当にプロのバイオリニストになるんだな。夢が叶ったな」
深く染み入るような声が、西園寺さんの思いを感じさせる。
「プロになった後の方が、きっと、もっと大変ですよね。しっかり頑張らないと」
「いつでも、応援しているから」
「はい」
二人で目を見合わせる。
「――本当に、美味しいですね。マナーばかり気になって、味なんて分からないかもなんて思ったけど、やっぱり美味しいものは美味しい」
盛り付けもまさに芸術的。そして、味も最高なのだ。
王道を守り抜いているような、何も邪魔しないシンプルな美味しさに感動する。
「それでいい。心から楽しんで、料理に讃辞を送る。それも大切なマナーだ」
「細かい所作は、佳孝さんのを盗み見させてもらっています」
そんな私に、西園寺さんもにこりと笑った。
「あずさのお母さんも喜んでいるだろう。お元気にしているか?」
コース料理が進んでいく。出て来る皿、すべてが宝箱みたいだ。
「おかげさまで、体調も何の問題もなく元気にしています。実は、佳孝さんに再会したことを報告したんです。そうしたら、とても喜んでくれました」
「そうか……。あずさのお母さんにも、本当に申し訳ないことをしたからな……」
その目が少し伏せられる。
二年前、西園寺さんがお母さんに謝りに行ったと聞いた。
「そんなことないです。西園寺さんには感謝しかない。あの住まいだって、本当に――」
そう。ずっと気になっていたこと――。
「分譲マンションも買ってもらいました。それに留学費用も。西園寺さんからいただいた慰謝料、まだかなり残っているんです。出来る限り返して行けたらって思ってます。私も、これからは少しずつ稼げるようになるし」
西園寺さんは、もう、センチュリーの御曹司ではない。
収入だって以前とは違うはずだ。
どう言葉にしたらいいのか、ずっと悩んでいる。
でも、もう助けられて与えられてばかりの自分ではいたくない。
「……あずさ。あの金は、あずさのものだ。留学生活はまだ続く。生活のことは考えずにバイオリンに打ち込んでほしい。お母さんの生活もあるはずだ。余計なことは考えなくていい」
そう言われても、私のもやもやは晴れない。
私にとって西園寺さんは、この先ずっと一緒にいたい人。だから、助け合いたいし分かち合いたい。