囚われのシンデレラーafter storyー

「今日は一日ゆっくり過ごせばいい。家の鍵はダイニングのテーブルに置いておいた。出掛ける時に使ってくれ」
「帰りは何時くらいになりますか? もし早いなら、夕飯を作って待っています」

目の前の出勤時の西園寺さんの姿が、夜の西園寺さんと対比されて。露出なんてまるでないのに、色気が溢れているように見えてしまう。

「……だとしたら、買い物が必要か。そう言えばマルシェを案内していなかったな。夕方待ち合わせをして、一緒に行こうか」

すっきりと整った精悍な顔。
その顔が、快感に悶えて歪むのだ。私にだけ、見せてくれる表情――。

「あずさ?」
「は、はい?」
「だから、食材の買い物を一緒にしようという話だ」

切れ長の目が私を見つめていて、我にかえる。

「助かります。一度教えてもらえたら、自分でも行けるので」
「そうだな。あの音楽スタジオの前で17時半に待ち合わせよう」
「はい。では、その時間に合わせて練習します」

少しずつ、朝の光に目が慣れて来る。

「じゃあ、後でな」

立ち上がろうとした西園寺さんに慌てる。

「せめて、玄関まで見送りを――」
「その格好でベッドから出るつもりか?」
「あ……っ」

視線を下に向ければ、素肌の肩が見えた。

「これから仕事に行こうとする人間には毒でしかないな」

そう言って、西園寺さんが私の肩に手を置く。

「ここでいいよ――」

立ち上がりざまに、影が出来て。傾けた顔が近づく。

「ん……っ」

触れた唇を受け止めていると、思いもよらずこじ開けられる。
くちゅりと、朝の光にそぐわない音が響く。
爽やかなミントの味がした。

「……はぁっ」
「ごめん。つい――」

唇が離れたと同時に、大きく息を吐いた。

「昨日のあずさを思い出して」

そう口にすると、西園寺さんが立ち上がった。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」

そのピンと伸びた背中を見送る。

 
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