囚われのシンデレラーafter storyー


 午後はすべて、バイオリンの練習に充てることにした。

 約束の時間まで、みっちりバイオリンを弾く。これからの演奏の仕事のためにも、一通りレパートリーをさらっておきたい。

 ひとたび練習を始めてしまえばあっという間で。気付けば、17時15分を過ぎていた。


 スタジオを出たところで西園寺さんを待つ。腕時計を見たら、17時25分だった。

 大通りから一本入ったこの路地を歩く人は、おそらくその殆どが住人だろう。

 西園寺さんも、毎日この道を通って通勤している。そう思うと、すべての光景をこの目に焼き付けたくなった。

「あずさ!」

その声の方を見る。こちらへと駆け寄って来る西園寺さんの姿があった。

「お疲れさま」
「急いで来たけど、待たせなかったか?」
「ううん。大丈夫です」

腕時計を確認すると、笑顔を私に向けた。

「じゃあ、早速行こうか」
「はい」

私の手を取り、歩き出した。


 連れて来てくれた場所は、アパルトマンからも程近い、市場(マルシェ)だ。生鮮食品から、パン、チーズなど、目移りしてしまう。

「佳孝さんは、何が食べたいですか? 何が好き?」
「……あれ、自然に呼べるようになって来た?」

色とりどりの野菜を前に、西園寺さんが私を見つめる。

「それは、もちろん、ちゃんと努力はしているんですから……」
「お仕置きの効果があったかな?」
「ち、違います」

西園寺さんは、その容姿からは想像できないけれど、かなり意地悪だ。私を困らせては喜んでいる。

 二人寄り添いながら、夕食の買い物をする。
 2年前、本当はしてみたかったことをこうして一つ一つして行く。

「せっかくだ。雑貨類も見て行くか。あずさが必要なものを買っておくといい」

そう言って、他の店にも立ち寄った。

「俺の部屋に来た時のために置いておけばいいよ」

あの部屋に、私の居場所も作ってくれる。それが、嬉しい。

「あぁ、そうだ。写真立てが欲しいと思っていたんだ」
「写真立て、ですか?」

生活雑貨から、ちょっとしたインテリア小物が並んでいる中で、西園寺さんが写真立てを手に取った。

「パリのいろんな場所で、あずさと写真を撮っただろ? それを飾りたい」

隣で背を屈めて立っていた西園寺さんが、私に笑顔を向ける。

あの部屋に写真を置いてくれるんだ――。

「どれが、いいと思う?」
「は、はい。そうですね……これなんかどうですか? シンプルで素敵」
「ああ、いいな。うん。これにしよう」

シルバーフレームのフォトフレームを選んだ。

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