囚われのシンデレラーafter storyー


 なんとか西園寺さんを仕事に送り出して、洗濯をして少し部屋を掃除して。

 そして、バイオリンの練習をする。

 スタジオの帰りに、可愛らしいお店を見つけて寄り道した。その店は、キッチン用品を主とした店だった。

 西園寺さんの部屋は一人暮らしのせいで、食器が少ない。西園寺さんが使っても違和感のないような、シンプルなものを選ぶ。

 エプロンコーナーにも目が留まった。そう言えば、エプロンがない。

西園寺さんの部屋に来た時に使うため、一つ置いておこう――。

食器とエプロンを買い、部屋へと戻った。


 夕方を過ぎて、食事の準備にとりかかる。
 
 西園寺さんの部屋にあった、クラッシックのCDをかけた。BGMは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。

 ピアノは苦手なだけに、聴くのは好きで。ラフマニノフの曲は本当にどれもロマンチックで、好きな作曲家の一人だ。ラフマニノフの中でも好きな曲トップ3に入る、ピアノ協奏曲第2番。

 ピアノはもちろんオケの部分も、ドラマチックで時々甘くて、そして切ない旋律が素敵なのだ。

 野菜たっぷりのポトフと、彩りにこだわった生野菜とサーモンのサラダ。そして煮込みハンバーグを作った。それに、フランスパンとワインだ。

 そろそろ最後の仕上げだという頃に、玄関のドアが開く音がした。

「――ただいま」
「おかえりなさい。もう少しでご飯できますから」

玄関に向かおうとすると、ダイニングに西園寺さんが現れた。

「いい匂いがするな」
「気合を入れ過ぎちゃって。たくさん作ってしまいました――」

そう言って笑うと、西園寺さんが鍋を見ていた私のすぐ後ろに立ち、無言のまま腕を回して来た。

「佳孝、さん……?」

スーツの張のある生地を背中で感じる。

「――エプロン姿、たまらないな。俺を誘ってる?」
「え……?」

私の肩に置かれた顔。耳元に触れるか触れないかのところでそんなことを囁く。

「エプロンって……エプロン姿なんて、一緒に暮らしていた頃見たことあるでしょう?」

私の腰のあたりで交差された腕に、力が込められる。

「あの頃は、目に映しても、脳には伝達させないようにしていた。そうしないと、あずさを襲ってしまうから」

腹部にあったはずの手のひらが這い上がり、エプロンの上から胸を覆う。

唇は私の首筋に、音を立てながら何度も触れた。

「んん――っ」
「こんな風に、触れずにはいられなくなっていたはずだ」
「ご飯、の、準備、しないと……っ」
「我慢できない。あずさを先に食べたいと言ったら、怒るか?」

濡れた唇が耳たぶに触れて、低く甘く声を響かせる。

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