囚われのシンデレラーafter storyー
どこか呆然としながら、自分の席に戻る。
あの少しの隙もない人に見たキスマークが頭から離れない。それは、初めて見たあの人の”人間味”かもしれない。
普通なら、そんなものを見つけた時点で、恋愛対象から外れる。少なくともそういうことをする相手がいる人を、自分から狙いに行くなんてバカバカしいことはしたくないし、したこともない。そんな必要もなかった。男は皆、勝手に向こうからやって来る。
なのに――。
この人に関しては、完全に逆の感情が芽生えた。そんな自分に、自分が一番驚いている。
西園寺さんも女を抱く――。
単なる想像ではない、その生々しい事実が私の心を揺さぶる。
誰かを抱くのなら、あの人もそういうことをしているのなら。
普通の男と同じように欲望を持ち合わせているのなら、可能性はゼロではない――。
あの顔で。
あの身体で。
どんな風に?
どんな表情をするの?
その冷たいほどに端正な顔を、どんな風に歪ませるの? 一体、どんなセックスをするの――?
知りたい。
別の顔を見てみたくてたまらない。
怖くなるくらいに、頭の中が西園寺さんのことで一杯になる。
私も30歳という、大人の女と言われる年代になって。男の人に胸の高鳴りを感じたことなんて、もう何年もない。
大人になれば、目の前に勝手に私に恋い焦がれた男が現れて。その中から、”付き合うにふさわしい、よりレベルの高い男”を選んで恋愛をしてきた。
こんな風に自分から強く求める気持ちが身体から込み上げて来たのは――初めてかもしれない。
触れ合うわけでもない、ただ視界に入れるだけでドキドキするなんて。思春期の初恋のような感覚が、私を昂ぶらせる。
誰もいないオフィスから廊下に出た。長い廊下にも、かろうじて明かりはついているがしんとしている。
自分の足音が異様に響く。
エレベーターホールに向かうべく歩いていると、潜めたような声が聞こえて来た。
こんな時間に、まだ誰かいたの――?
その声の元を耳で探ると、それは同じフロアにあるリフレッシュルームからだった。