囚われのシンデレラーafter storyー
「……ああ。そうか。うん」
日本語――?
「いや、大丈夫だよ。ちょうど仕事は終わったところだから。そっちこそ、今、早朝だろ? 眠くないのか?」
引き寄せられるように踵を返し、足を忍ばせて近寄る。
え――?
がらんとした夜遅くのリフレッシュルーム。
窓際に、こちらに背を向けて立つ一人の男の人の姿があった。ジャケットと鞄を手にしたまま、耳にはスマホを当てている。
西園寺さんだ。
こちらに背を向けているけれど、その立姿を見ればすぐに分る。
「日本だと時差があるからな。いや……気にするな。出られない時はどうしたって出られない。大丈夫だから出ているんだ」
私には絶対に聞かせてもらえない、西園寺さんの日本語。
それに――。
そんな声、知らない。
そんな、優しく語り掛けるような声、知らない――。
影から様子をうかがいながら、胸がドクドクと激しく鳴る。
「――俺だって、アズサの声を聞きたい」
さらに甘くなった声。
甘い低音は心をぶち抜く。
”アズサ”
甘く呼ぶその名前は、毒のように私の身体に行き渡る。
私と一文字しか違わない名前を持つその人を――想像しようとして、やめた。
想像してしまえばきっと、自分がとんでもない悪女になってしまいそうで。
燃え滾り始める感情を必死に抑える。
その感情は、激しい嫉妬と羨望と、そして渇望だった。
あの人に愛されれば、あんな風に語り掛けてもらえる。
あの人に抱かれればきっと――。
欲しいという気持ちが、抑えられない。