囚われのシンデレラーafter storyー


”アリサ、どう? 楽しんでる?”

決してあからさまにその姿を見たりはしない。
視界の端で西園寺さんの居場所を認識する。

そんな私に、声を掛けて来たのは、同じ経営企画部に所属する男性。同じチームではないから、直接的に仕事で接触することは多くない。顔を合わせれば挨拶する程度の人だ。

”はい。お料理もワインも美味しくて。それに、皆さん親切で、本当に助けられてます”

にこやかに答える。

”それは良かった。君の評判は聞いてるよ。フランス語も堪能だし、アイディアもスタッフへの指摘も的確だって。何より、もう組織に馴染んでいる。ほら、日本人はシャイだって言うだろう? それが悪いとは言わないけれど、その分周囲が気を使う。その点君は、自然とその場に溶け込んでいる感じだ。洗練されている”
”それは、皆さんのおかげなんですよ。和やかな雰囲気が、私の能力を存分に発揮させてくれてるんです”

距離が近い。

同じチームではないという少し距離のある人だからこそ、積極的に口説きにきている――。

長年の経験からそれを察知する。

”君と、落ち着いて話してみたいと思っていたんだ。今度、ディナーでもどうかな?”

ほら、来た。

かつての恋人に言われたことがある。

――有紗はどうしても男の目を引いてしまう。顔は知的美人。なのにその小柄で華奢な身体、それでいて大きな胸。男の支配欲をそそるんだよ。そして、何としてでも落としたいと狩猟本能もくすぐられる。

『男にとって、毒みたいな女だ』

男は、自分の女には清純さを求める。それでいて自分にだけは淫らであってほしいと思う。その両方を私は持っているのだと言われた。

”お誘い嬉しいです。でも、今は、自分の生活を軌道に乗せることと、何より仕事のことで精一杯で。また、今度誘ってください”

私に声を掛けてしまう気持ちは理解出来るけれど、残念ながらあなたはお呼びじゃない――。

そう心で思いながら慎み深い笑みを向ける。

 そして、その視線の端で、西園寺さんの姿を確認する。
 この男にはまるで用はないけれど、こうやって他の男に口説かれている姿を見せることが出来れば、それはそれで役に立つ。他の男に狙われていると知れば、途端に価値ある女だと思うものだ。

 ちらりと向けた視線が、不意に西園寺さんと重なる。

見ていて、くれた――?

でもその視線は、すぐにそらされた。

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