春の欠片が雪に降る




 送り出し、木下が加わったコートをぼんやり眺めていると「あのぁ……」と、控えめな声。

「はい?」

 見れば木下と同年代くらいだろう女の子が二人。
 ほのりの隣にしゃがみ込んだ。

「木下の彼女さんなんですか?」
「ち、違うよ、職場が一緒なんです」

 手を左右に振って大袈裟に否定したほのりを見て、二人はあからさまに嬉しそうな顔をした。

「あ、上司の方なんですね、よかった!」
「うーん、上司ってわけでもないんだけど」

 (言ってるそばからきたなぁ……)

 これは明らかに。

「ほら、だから言ったじゃん。お姉さんとか職場の人じゃない? って」
「でも木下ってお姉さんいないじゃん、だからびっくりした」

 (木下くんのこと好きな女の子だな……)

 ほのりは、何となく直視したくなくて木下のいるコートに視線を向けた。


「木下が女の人ここに連れてくるって初めてだから、この子驚いちゃって」

 肩をポンっと叩かれた女の子は、見るからにスポーツをしにきた服装ではない。ベージュのニットに、合わせているのはロングのタイトスカートだ。
 ふわふわと柔らかそうな肩下まである髪の毛を緩く巻いて、細くて小さくて、可愛らしい。

「だってフリーなの初めてじゃん……、ごめんなさい、いきなり」

 顔を赤らめて、謝罪されてしまったなら並の男は大体キュンとくるだろう。女だが、ほのりも少しキュンときた。

「いいですよ。木下くんが好きなんだ?」

 上司だと思われていたならばそれらしく、余裕の笑みを作ってみる。

< 44 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop