春の欠片が雪に降る
「ほんなら帰るか。ほのりん残りはもうええん?」
「あ、いただきます!」
残したままはなんだか気が引ける。
ほのりはグラスに残ったビールをグイッと一気に飲み干したのだった。
残すは領収書をもらって帰るのみ。
が、しかし。
――店を出てほのりはすぐに頭を下げた。
「申し訳ありません! まさかご馳走になってしまうなんて」
前もって中田に報告はしていたし、契約更新の後だったわけだし。
当たり前に経費で落とすつもりでいた食事だったけれど、相沢が会計を済ませてしまったのだ。
その場で押し問答するのは、かえって失礼だろうと二度ほど拒否した時点で諦めたけれど。
一体自分は何のためにこの場にいたというのか。
「こんなとこでそない頭下げんとってや!」
戸惑うほのりを前に、ははは、と相沢はまた豪快な笑顔を見せた。