春の欠片が雪に降る
「まぁ、あれや。今日は俺がほのりんと飲みに行きたかったわけやからさ、ごめんやで」
「え?」
何だかそれはそれは申し訳なさそうな声で相沢が謝罪の言葉を口にする。
「いや、木下くんからずっと事務やってた子やって聞いてたし。こんなんもほんまはやめとったほうがよかったんやろうけど」
言葉のとおり、彼は顔の前で両手を合わせ、ほのりを見た。
「仕事の延長で、強制的に来させてごめんな。綺麗な子やなぁって、前来てくれたときから思ってたからな」
「は、はぁ……」
予想していなかった会話の流れだ。
「俺は独り身やし、ほのりんもそうなんやったら、まぁあれや。また気向いたら飯でも付き合ってや」
「あの……」
「ほんで、個人的に仲良くしたってもええかなって思ったら連絡先教えてくれや。あ、プライベートの方な」
ほのりのここ何年かの日常の中で、男性に言い寄られることなど、悲しいほどになかった。
合コンに繰り出して、なんとかしがみ付いて、でもうまくなんていくことがなくて。
(……木下くんといい、この社長といい……)
諦めた途端、こうも惑わせる言葉を軽く口にしてくる男性の登場が続くと。
(残念ながらラッキーとか思える年齢でもなくなってるんだよね)