春の欠片が雪に降る


 ……いや、歳のせいではないかもしれない。何か良からぬ落とし穴に墜落しそうな危険を感じるのは、恋愛に重きを置いて揺れ動き続けた心にゆとりを持てていなかったからかもしれない。

 だから、自分の為に自分だけで決めてここ、大阪にいる。
 "今"であれば、必要な言葉がきちんと声になる。

「ないと思います。仕事ででしたらいくらでもお目にかかりたいんですけど」

 さらりと言って、最後に「今日はありがとうございました」そう言い残して。
 ほのりは駅へと向かって歩き出した。
 失礼に当たるかもしれないと考えはしたけれど、相沢自身が言ったのだ。
 “個人的に”と。
 ならば、この解散の仕方も責められる筋合いはないと思う。

(まぁ、社長が私情で仕事する人じゃなかったらね)

 ふぅ……と、息を吐きほのりはどんよりと曇って月明かりはおろか、星明かりの一つも見えない夜空を眺めた。
 金曜の夜。
 駅近くの繁華街。
 道行く人はもちろん多い。
 そんな中で、雑音にも負けず。ほのりの頭のなかを支配するものがある。

(こうやって会話、終わらせることなんて簡単だったじゃん……)
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