春の欠片が雪に降る

 木下の部屋に上がり込んでしまっていることはもちろん、相沢との接待後記憶が朧げなこと。何より、全身濡れている状態で自分は今どこに座り、もたれ掛かっているか。

「そ、ソファー濡らしてる、ごめんなさい!」
「それはええんですけど、風邪ひくんで起きたんやったら風呂入りません?」
「風呂!?」

 色々と考えたり謝りたいことはあるのだけれど、それよりも何よりも風呂。

「や、あの……私このまま帰るから、また改めてお詫びを……」
「ダメっすよ。まだ雨強いし、ゆうたでしょ、話したいことあるんですってば」

「でも」と首を縦に振らないほのりに木下は更に言う。
「濡れたまんま寝てる吉川さん抱えて一生懸命帰ってきたんやけどなぁ、風邪ひいてほしないし」
「……う」

 これが、八つも下の男の子の前でやらかす失態なのか。ほのりは二の句がつげない。

「連絡もつかんし、相手は相沢社長やし。僕めっちゃ心配してたんやけどなぁ」
「……ご、ごめん」
「風呂入る?」

 満面の笑みだけど、声には有無を言わさぬ強さがある。そう感じるのは罪悪感からなのか。

「……お、お借りしたいと思います」
「はい、了解っす、あ。これ来て下さい」

 先ほどから手にしているスエットを手渡された。
< 77 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop