春の欠片が雪に降る
「下着はないんやけど、さすがに」
「そりゃ、まあ、あっても……借りないけど」
「はは。そーっすね、濡れてるんやったら洗濯して……」
「いや!それはほんと大丈夫!ありがとう!」
(ヤバい)
温度このままでいけます?
あ、シャンプーとか適当に使って下さい。
タオル置いときますんで。
諸々案内をしてもらい、ソワソワする気持ちを抑えながらほのりは身にまとっている濡れて張り付く衣類を脱ぐ。
ドアを隔ててすぐに木下がいるのかと思うと、妙に心臓が高鳴っていることが、どうにもくすぐったい。
風呂場に入り、お湯を浴び、思考は巡る。
(……てか待って。話ってさ、何? なんだってゆーの)
間違いなく仕事の話だろうと思うけれど、ここ数日これまでと比べてそっけない会話が多かったことから……それ以外だって多少可能性がないだろうか?
ほのりは、瀬古に聞かされた松井という、元事務員の存在を思い出した。
(告白してもないけど振られる的な?)
木下の親切に勘違いしかけている心を見抜かれて、念を押されたりするのだろうか?
相沢とのことだろうか?
電話に出なかったことだろうか?
それとも、もっと他に何かやらかしたろうか?
悶々としながらも、重たい頭の中とは相反して身体は温もり、ホッと力が抜けていくのがわかる。
(まぁ、もう、この際何でもこいって感じだわ)
いつまでもシャワーを浴び続けてるわけにもいかない。
ほのりはシャワーを止めて、風呂場を出る。
いそいそと濡れた体を拭き、木下に持たされた着替えを着てみれば、彼がそばにいる時に感じる爽やかな香りに包まれる。その正体は柔軟剤だったようだ。
(……下着、隠していくか)
使用したバスタオルに濡れた下着を包み込み、脱衣所を後にした。