春の欠片が雪に降る
「あ、吉川さん、あったまりました?」
「うん……ありがとう」
「それ、なんですか?」
リビングのドアを開けると、すぐにこちらに向かってきた木下が、やはり手にしているバスタオルに視線を向ける。
「下着……濡れてるから。一緒に持って帰って洗って返していい?」
「や、別にそんなんええんやけど……」
「いや、見せるわけにもね」
ボソボソと受け答えしていると、何やら少し黙り込んだ木下は突然目を背ける。
「そやった、すんません」
「ん?」
「いや、ここ連れて来るまでに必死やって、そうやんな、脱いでんねやったらそうやん」
「なに?」
「何も中着てへんの気持ち悪いかもやけど、あれっすよ、僕今んとこ手出したりせんので警戒せんとってください。連れ込んどいて、なんやけど」
今んとこ。
そのワードをほのりの頭がそれとして認識した途端、顔が熱くなる。
(あ、赤くなってどうすんのよ)
隠したくてとりあえず下を向いてみる。
「とりあえず座りません? あ、なんか飲むもんって思ったけどうち酒しかなかったんすよ……」
まさか飲みます? って言えんしなぁ。と、木下は頼りなく眉を下げて笑った。
「今の吉川さんに酒は勧められへんわ」
「だよね……ほんと、ごめん」
頭を下げると、また木下は笑い声をあげた。