竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜

「昼も答えたが、俺が子どもだった時は、言葉が話せなかった。普通は三歳ほどになると、大人とも会話ができるようになるのだが、俺は十年経っても話せなかった」
「十年……」
「ああ、そのうえ竜気の量が多すぎて、俺はいつも竜の姿だった。人間の姿になれないんだ」


 大きな雨粒が、窓ガラスを打っている。夕方曇っていた空が、今頃雨に変わったのだろう。そのパラパラという音が、竜王様の言葉をいっそう淋しく感じさせ、かける言葉が見つからなかった。


「竜気をコントロールできない俺は、いつも泣き叫んでいた。疲れると眠り、人の気配がすると、また吠えた。部屋中を暴れまわり、気づいた時には部屋の窓は封鎖され、扉も内側からは開けられなくなった」


(それって幽閉されてたってこと……?)


 今の自信にあふれ、皆に大切にされている竜王様の過去とは考えられない話に、ゴクリと喉を鳴らした。


「結局人の姿になり、話すことができるようになったのは、俺が二十歳になった時だ。部屋から出れたのも、その時だったな」
「じゃあ、二十年間も、一人でその部屋に?」
「ああ、シリルが世話をしに来てくれるのが、唯一の楽しみだった」


 以前彼は「竜は強いことが大事」だと言っていた。小さな竜の姿すら、他人には見せたがらなかった竜王様。それならばこの話をするのは、かなりの勇気が必要だったはずだ。
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