独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
会社から少し離れた、目立ちにくい場所で待っていてくれる運転手に会釈し、車に乗り込んだ。

人の好い運転手に具合が悪いのかと心配され、慌てて笑顔を貼りつけた。


いつも通り帰宅し、真っ暗な部屋に足を踏み入れる。

もちろん瑛さんは帰っていない。

物音ひとつしない空間にひとりでいると、嫌でもふたりの会話を思い出してしまう。

電気をつけ、着替えもせずにのろのろとリビングのソファに座り込んだ。

朝霞さんの表情は見ていないが、声にはどこか悲壮感が滲んでいた。



『――羨ましいわ。私だって結婚したかった』



『だって、瑛。後悔しているのよ』



朝霞さんは、瑛さんと結婚したかった? 



だったらなぜ出て行ったの?



『……今さらよく言う。突然出て行ったのはお前だろ。俺がどれだけ……』



『お前がどんなに悔いても時間は巻き戻らない』



私との結婚を後悔している? 



朝霞さんが……好きなの? 



本当は、私ではなく朝霞さんと暮らしたい?



告白してくれた、彼の気持ちを疑ってはいない。

でも『好き』には重さと優先順位がある。

幼馴染として、似た環境で生きてきたふたりが惹かれ合うのは当然だ。

考えれば考えるほど思い当たる悲しい予測に胸が苦しくなる。

ギュッと胸の前で握り合わせた指は、夏なのにとても冷たかった。
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