独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
人数を絞ったとはいえ、小規模とは言い難い結婚式で突き刺さる視線は、決して温かでも友好的でもない。

この結婚を心から喜び、歓迎している人はいないのだと現実を突きつけられる。

そもそも新郎すら、本心では受け入れていないのだから。

幼い頃夢見ていた新婦像と程遠い今の自分に、虚しさがこみ上げる。



『――愛することを誓いますか?』



『はい、誓います』



チャペルで彼が躊躇いもせず口にした、誓いの言葉。

本心なら、どんなに幸せだっただろう。
 
財産も肩書もいらない。

ただこの人の心が欲しいだけなのに。

ズキリと痛む胸には、必死で気づかないフリをする。

感情の揺れ幅が大きくてコントロールがうまくできそうにない。



「……一生に一度の晴れ舞台くらい、笑顔でいろ」



似たような台詞を、今日は何度言われただろう。

披露宴会場に向かう足が竦む。

できるなら今すぐなにもかも放り出して逃げ出したい。



「……ごめんなさい」



反論する余力さえなく、謝罪する。



「お前はこれから先、一生俺が守るからなにも心配するな」



そんな言い方をしないで。



期待してしまうのがわからない?



ふくれていく悲しみに心が悲鳴を上げる。

お姫様のように綺麗なドレスも、形ばかりの祝辞も、豪華な食事もすべてが虚しく色あせていく。

粛々と過ぎていく時間はただつらいだけだった。
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