【砂の城】インド未来幻想
「シヴァ様、何処へ……?」

 基壇から階下へ降り、王宮との間に流れる人工河へ向かう。不思議そうに尋ねる彼女に、シヴァは楽しそうな(おもて)を寄せた。

「君と「再会」出来たあの墓廟だよ。アグラの街のタージ=マハル。全てを終わらせるには最高の場所だと思わないか?」

「全てを……」

 やがて辿り着いた岸辺で、シヴァは水面(みなも)の煌めきに呼びかけた。

「いい加減遊んでないで出てくるんだ。やっと我が家へ帰れるぞ」

 その声が河の流れの狭間へ差し込まれた時、水は急激にうねり、底から押し上げられるように黒い物体が盛り上がった。両宮程の高さまで貫かれた闇の塊は、まさしくドールからの襲撃を救ったあの黒い塊であった。

「あ……もしかして、ナーガラージャ?」

 パールヴァティーの問いかけに、即座に反応し頷く闇。そのまま鎌首を地面まで下げ、二人はその頭上に乗り込んだ。

「あの時あなたが助けてくれたのね……ありがとう、ナーガラージャ」

 お礼の言葉に喜びを示すが如く、シュルシュルと長い舌を出して見せたナーガラージャは、西の方向へ進み出した。

「この分なら夕刻には着くだろう。終わらせるには良い時間だ」

 向かう先の見えないドームの壁は、ナーガラージャの鼻先が触れた刹那、散り散りに砕け陽光に溶けた。久し振りに見る外の大地は以前と変わらず、ただ淀んだ見通せない空と、風に流される砂のみであった。


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