【砂の城】インド未来幻想
 再び捧げられた甘い口づけは、彼女の体内を燃え立たせながら駆け抜けた。それはより一層濃厚な愛の雫(アムリタ)となり、触れ合うパールヴァティーの唇からシヴァの内奥(ないおう)に戻された。

 女神が宿す愛の力(シャクティ)は、神の力の源となる。

 愛し合う二人の天上から、雨の音色が降り注ぐ。まるでタージ=マハルのてっぺんから溢れ出るようなガンガーの調べ。彼らが準備を終える頃には、砂の地表は海と化すだろう。

 そして――

 シャクティを得たシヴァは踊る。踊りの王(ナタラージャ)として世紀末(カリ・ユガ)を終わらせる為のターンダヴァを。

 無に戻したこの星を、創造神ブラフマーに(ゆだ)ねよう。創り上げられた世界創造初期(クリタ・ユガ)は、再びヴィシュヌ神に紡がれるだろう。



 これは終わりではない――始まりなのだ。



 雨は河となり海となり、全ての混沌を呑み込んだ。

 しかし(そら)は晴れ、あの砂の城で見上げた久遠(くおん)の星空を取り戻していた。

 箒星(ほうきほし)が流れては消え、また流れゆく。

 それは廟床(びょうしょう)の大理石に広げられた、彼女の濃紺のサリーにも似ていた――。







       [ अंत ─ 完 ]



[註1]ナーギニーに「さようなら、シュリー」と言われ、シュリーの心が動いたシーンは、第三章五話目[一変]の以下の場面にございます。

>「それじゃ、ナーギニー。明後日ねー!」

「あ……うん、さようなら、シュリー」

 ──さようなら、シュリー。

 ナーギニーの他愛もない挨拶がシュリーの耳に届いた時、彼女の心の片隅にある小さな何かに触れた。それを少女に気付かれぬよう、シュリーは懸命に走り続ける。
 ・
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 ・
 ──あなたはわたしが守るわ……わたしが、必ず──

 自分の(いだ)く固い決意を、改めて胸に刻みつけた。


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