Restart~あなたが好きだから~
そして、翌日からも七瀬の秘書生活は、城之内から引き継いだものとは様相を異にした日々となった。


「ただでさえ、営業から秘書に変わって、いろいろ覚えることがあって、また1からだなぁと思ってたら、いきなり俺のバディになれって言われて・・・本当に目が点だよ。」


予想もしなかった日々にくたくたになりながら、ようやく迎えた週末。久しぶりに親友沙耶とランチを共にしようとカフェに入り、オーダ-を済ませるや、七瀬はそう言って、大きくため息をついた。


「専務のバディって、全然イメ-ジ湧かないんだけど、具体的にはどんなことをやらされてるの?」


一方の沙耶は、興味津々とばかりに目を輝かせている。


「専務の業務の補佐。秘書はもともと、その事務的なサポ-トをする立場なんだけど、私に求められているのは、専務の仕事そのものに対する補佐と意見具申。やがては業務の分担や代行も専務はやらせたいみたい。」


「へぇ、凄いじゃない。」


「そんな、言うのは簡単だけど、いきなり取締役会の議題や専務決済案件の可否について、意見を言ってみろって言われても、言えるわけないし。明らかに場違いな会議やお取引先訪問に連れ回されて、何事もまずは勉強だって言われて、でも従来の秘書業務だって、別に誰かが肩代わりしてくれるわけじゃないし、そんなのお前なら片手間にできるはずだって言われても・・・。」


困惑を露にして、七瀬は嘆く。


「そっか・・・随分惚れ込まれたんだねぇ。でもさ、最初七瀬からバディの話を聞いた時は、あんた口説かれたのかと思った。人生のバディとして。」


「正直、私も最初は『ひょっとしたら、私のこと口説いてるの?』って思ったけど、全然そんなつもりはないみたい。『お前は恋愛に興味がないから、バディとして長く付き合えそうだ』って何度も言われたから。」


「そうなんだ。」


「それに、どこまで本気なのかはわからないけど、自分が社長になったら、私を取締役にするとか言ってるし・・・。ありがたいと思うべきなのかもしれないけど、そんな自分がとても想像できないし・・・。とにかく、今はもう頭も身体もキャパオーバ-だよ。」


と言って七瀬はまたため息。


「でも七瀬のことだから、それから逃げる気はないんでしょ?」


「今のところはね。でももう無理って思ったら、今度ばかりは逃げるつもり。それに・・・。」


「それに?」
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