成瀬課長はヒミツにしたい
「まりこちゃーん。はやくはやく」

 走ってマンションのエントランスを抜ける乃菜を、真理子はゼエゼエ言いながら必死に追いかける。

 今日の乃菜はいつになく上機嫌だ。

 園に迎えに行った時も、靴を履くのもそこそこに、真理子の所へ飛び出してきた。


「乃菜ちゃんは、柊馬さんが来なくて寂しくないの?」

 エレベーターの階数ボタンを押しながら、真理子は乃菜の顔をそっと見る。

「うーん。のなはね、とうたんのこと、だぁーいすきだけど、今はキョリをおくんだよ」

 乃菜は、えっへんと鼻を上に向けた。


「え? 距離?! どういう意味?」

 まるで恋の駆け引きのような乃菜の口ぶりに、真理子はぽかんと口を開ける。

 ポンという音が鳴り、エレベーターは部屋のあるフロアに到着した。

「だって、とうたんはライバルなんだもーん」

 乃菜は手を広げて飛行機のポーズをすると、フロアへ飛び出して行く。

「乃菜ちゃん! 危ないよ」
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